2014年10月6日月曜日

ルネッサンスポリフォニー音楽における即興

久しぶりに、ワイマールで学生と共に即興の講習会に参加した。
今回のテーマはカントゥス・フィルムスに対して、3声、4声を付け加えるか、
といった即興の学び会。

ワイマールの南に位置する、Ehrings村の小さなFriedhofチャペルが、この週末、私たちの小島となって、この世界に静かに沈めていくこととなった。

その日は、10時からだったので、ハレを朝早く出て、電車の中での朝食をした。
10月の初めの週はいつも、良い天気で、朝早くは霧が立ち込めていた。
そこへ大きな満月のような太陽が霧の向こうに顔を出した。

講習会は全部で9-10人ほど、みんな音楽学の学生やリコーダーのクラスの生徒が
多かった。モダンのトロンボーンの生徒もいた。

さて、最初に私たちが取り組んだのは、世俗音楽のテノールをC.F.(カントゥス・フィルムス以下省略)とし、そこに、ソプラノ、バスをどう組み立てていくか。
まずは、ソプラノ。C.Fに対して、6度上、(もちろん8度からから始めて、6度が続き、8度で終わる)
そして、バスは、8度から始めて、3度5度、(または5度3度)の繰り返しで即興していく。
また、Altの組み立て方は、バスが3度の時はC.Fに対して3度、バスが5度の時は、
C.Fに対して、4度を取る。
実際Generalbassとして組み立てる時は、バスをベースに考えるだが、この場合、
C.Fから考えなければならないので、少しややこしい。

それから、C.F.に対して、ソプラノの声部は10度のパラレル(3度のオクターブ上)とし、
テノールを即興するといった形もある。その場合、テノールは8、5、3、6度すべての
協和音を使用できる。しかし、その時、C.F.とソプラノの動きに対して、反対の方向に
しなければならない。これは、本当に面白かった。
もちろん、この場合、ソプラノの声部は、10度の動きだけではなく、装飾を入れてもよい。

また、C.F.に対して、2声のオクターブにおけるカノンにも挑戦した。
これもまた、C.Fの動きと反対に音階で降りたり上がったりするのだが、
これは慣れるまで難しかった。例えばC.F.がGからAに上がる場合、
Gの和音とAの和音の共通の音は、Eにあたるので、それを経過する音階で
下向する形をとる。
C.Fは、この日、アッシジのフランシスコの生誕何周年を迎えたので、グレゴリオ聖歌からの
抜粋を取った。

一番楽しかったのは、Faux-bourdonの作り方。
これは、C.Fに対して4度6度のパラレルを作るのだが、
頭で考えるより、歌うととても楽しい。

また、これを頭脳だけで解釈するのではなく、教会で歌い、その空間の音響を
活かして、どのように歌うかという、声の説明も受けた。
鼻に響かせ、いかに、倍音を響かせるか。
教会の反響に対して、どのように多声部でハーモニーを作るかというのも、
一番大切なことだ。

即興の分野は、まだ計り知れない可能性を秘めている。
16世紀のディミヌーションはみんな知っているけれど、ルネッサンスの時代までは
さかのぼっていない。しかし、音楽のルーツはそこにある。
それは、各声部個人を重んじるのではなく、その他の声部に預け、
大きな空間の中で、その小さなマクロ的宇宙を作り上げる。
それは、ハーモニーであり、その調和に中にこそ、神のみぞ知るであろう、
素晴らしい世界を私たちが、その瞬間、顧みることができるのだから。

いつか、私たちは、テオリーの世界とプラクティス(実践)の境目が
無くなる時、きっと何かを見つけることができるのかもしれないと思った。






2014年7月16日水曜日

CD録音!


昨日から、CD録音が始まった。
私にとっては、初めての本格的なソロ活動の第一歩のCDで、
これまでに築いてきたすべてのものを引き出せるようにしたいと思っている。

録音というのは、まるで鏡のようだ。自分のすべて醜いところも見えてきて、
こんなはずでは・・・という焦りもあった。

課題もたくさんあって、トンネルを抜けられるか不安だった。
初めて自分をさらけ出して、音楽と向き合い、もっと正直に自分の弱さを見つめる。

今、私は初めてスタート地点に立てたんだと思う。

大学を卒業したり、コンクールとかいって頑張ってきたけれど、
それだけで安心してしまって、何かと”プロ意識”なんていうものを持ったりしても、
中身がないと意味がないのだ。

それから、体力勝負。忍耐も必要。
音楽の泉が、自然に湧いてくるまで委ねなければいけない。
戦ってはいけない。焦ってもダメだ。
自分の限界に達してから、いつも、そこから始まるから。

人と比較してはいけない。
なぜなら、その人が持つ賜物と、自分の賜物は、
与えられ、それぞれに、働き方がちがうから。

そして、自分を卑下するのも、よくない。
いつもプラス思考で、ポジティブに自分を持っていけるようにすること。
私は、これで一番長い間つまずいていた。
必ず、道は開けると信じなければならない。

今回の録音は、まだまだ氷山の一角。
これから9月にもまた、この続きがある。
何を録音しているかは、まだ未公開。お楽しみに。








2014年6月17日火曜日

ジョルディ・サバール、うちに来る

なんという、幸運!サバールは、私の2mm前にいらっしゃる!

先週の週末、ヘンデルフェスティバルの為、ハレにいらっしゃっていたついでに、
ホーム?講習会を、という話しになったのは、ワイマールのガンバの教授、Imke David先生の
提案だった。

金曜の昼ごろからのサバールのプロ―ベを聴講した。
プログラムは、シャイト、シャルパンティエ、ローゼンミュラー、そしてヘンデルという
色彩豊かで、豪華なプログラム。彼の指揮するエスぺリオンXXIには、
かつて学んだ私の師匠、ロレンツの姿もあった。
サバールの横にならんだ師匠をみて、サバールにも劣らない演奏力に、さすがだ。と思わされた。
10年前にサバールの講習会を受けた時より、彼はさすがに年をとった。
というより、目に力が無くなった?気がした。(お疲れ何だろうなぁ。)
彼の奥さま、モンセラートが亡くなったのは2011年。やっぱり寂しいんだろうなぁ。

サバール先生は、そして土曜日に本当に、家にやってきた。
夢をみているんだろうか・・・!
10時半から13時くらいまで、5人の生徒を(一人30分間ずつ)無償でレッスンしてくださった。


 私以外は、Imke先生のお弟子さん。彼は、デュマシーを演奏。
サバール先生曰く、中指のことを”魂の指”と呼ぶ。
その魂の指の重要性をお話しされた。
それは、ヴァイオリン属には無い指。最もデリケートで、繊細な動きを弦に伝えることが
できる。マレでいう、アンフレー ”e”である。

シンプソンのデュエット。オスティナートバスを、和音で弾くことを勧める。
ここでは、右手の手首をいかに楽で自由に動かすかについて話された。

右手の手首を楽にすれば、一日中だって小刻みに動かして弾いていられる。と語りながら
約2分?ほどずっと弾き続けるサバール師。
誰か止めて~!

また、ある生徒は緊張してうまく弾けない人がいて、
それを見抜いたサバール先生曰く、

”あるとき、森を歩いていたら、猛獣に出くわした。
恐れのあまりどうしようか考えていたが、
ふと、となりに木イチゴがなっているのをみて、
それを食べ続けることにした。”

一瞬意味不明だけれど、これは、演奏しているときの
私たち自身の話。

猛獣はいつも私たちの心の中にいて、
それを抑えようと必死になる。
でも、音楽という木イチゴをもっと味わいなさい。
ということ。

私自身も、とても本番は緊張する。
あるときは本番の前緊張しすぎて過呼吸になるくらい。
でも、サバールも緊張していたなんて、びっくりした。


私は、マレのラビリンスを演奏した。
サバール先生は、とても褒めてくださって、音楽的だ、とおっしゃった。
でも、もっと駒の近くで弾きなさい、と言われた。
これは、私がガンバを勉強したてのころから言われ続けていたことで、
まだ、進展していないことに、ショックだった。
私は、駒の近くで弾くことを心がけ、椅子や、足台など、
色んな方法でそれを克服しようとした。
でも、結局、駒の近くで弾くという、勇気がない。
自分自身に、いまだに、弱さを持っていることに気づかされた。

ガンバは本当に奥が深い・・・。

でも、忘れられない貴重な体験となりました。
ありがとう。




2014年5月10日土曜日

オルガネット奏者Christophe deslignesさんをお招きして。

風の強い日の午後、即興の達人が家を訪ねた。

Christophe deslignes。
彼は数少ないオルガネット奏者の中でも、Pedro Memelsdorff や、 Kees Boekeなど、有名な中世音楽家たちと演奏をしている。その独特な個性的な即興は、現代曲でも中世の曲でもない、
ジャンルを超えたものだ。

そもそも、なぜ家に来たわけは、来週ある演奏会をドレスデンで行うため、私の旦那は、まだあったこともなかったのだが、連絡をして、ハレに一足先にきてもらうことになった。

黒のシルクハットの下に毛むくじゃらの髭がのぞき、黒い落ち着いた目で流暢なドイツ語を話してくれた。生まれはパリ。だが、母親はドイツ人らしい。

わたしたちは食事を済ませたのち、早速一緒に、トレッチェント音楽を奏でた。RossiのOrquaや、ランディーニを演奏した。圧巻!!

彼のオルガネットは彼の片腕となり、20年になるという。なるほど、よく使い古した道具、彼自身の息吹が音となって現れるようだ、と思った。

鍵盤は、少しすりへって、各鍵盤が個性を持っている感じがした。オルガネットは、オルガンの領域を超えた、吹管楽器との両立を果たした、まさに、”風を操る”道具だと思う。私は、そこに魅力を感じた。

クリストフさんは当時、バーゼルのスコラで勉強をし、ある日オルガネットを楽器室で見つけたころの感動を話してくれた。
「膝に乗せて、楽器を弾いた時、まさにこれだと思った」そうだ。彼は小さいころから自由に即興するのが好きだった。ピアノを勉強し、自分の即興スタイルに合う楽器を見つけるのに苦心していたその矢先だったそうだ。
私も、ガンバに出会ったころの気持ちを、ふと思い出した。




左は旦那の。右はクリストフ。

その日の夜、突然の友人からの電話。一緒に自宅で映画をみることに。

週末の長い夜が始まった・・・。
そのおかげで、クリストフさんの色んなお話しを深く聴くことができた。
彼の夢は、彼自身のマニュスクリプトを完成させることらしい。しかも、手書き譜で中世のようだけれど、まったく同じではなく。ジャンルは古代から中世、そして現代音楽だそうだ。
彼は、言語にも興味があるらしい、彼の住む、パリから西側に離れた田舎は、まだケルトが残っているらしい。彼曰く、フランスという国は存在しない。なぜなら、いまだに古い民俗が残り、昔のことばを話しているところが残っているから。とのこと。方言もその一つ。日本でも、祖父母のころにくらべ、方言が失われてきている。それはある意味文化を失う危険なことなのかもしれない。


そしてホームコンサート当日。
ボカッチオの”デカメロン”の朗読とともに、トレッチェント音楽を演奏した。
曲目は、

Or qua, conpagni Caccia (Codex Rossi)
Per seguir la sepranca Ballata, (Landini)
Ochi dolenti miei Ballata (Landini)
L'alma mia piange Ballata (Landini)
Aquila altera Madrigal (Codex Jacopo)
Estanpie Royal (即興)
O Crudel donna Madrigal (Codex Rossi)
Lucente stella Ballata (Codex Rossi)
Istampitta (即興)
Isabella Istanpitta (Codex Londo)

その2台によるオルガネットの響きは、宇宙の息吹のように空気を揺るがした。
それは、風をおこし、雨をふらす雨ごい師のようでもあった。
彼は、即興は、”その時にならなければ、何を演奏するかわからない”と話した。
その時、インドのヴィーナ奏者の話、“音の神秘”の本の中にでてくる、
「東洋の歌い手は、うたいだすまで何を歌うか自分でもわかりません。
時と場の雰囲気をかんじとって心に浮かびあがってくるものをうたい奏でるのです。」
というのを思いだした。
彼らの即興はそれぞれスタイルのちがうものではあったけれど、
二人ともすごい。と、ただ、ため息をつくばかりだった。



最後の写真は、オルガネットルテ♡
実は、5月9日は旦那の誕生日で、少しお祝い。

2014年4月28日月曜日

今年もやってきました。
ハレでは、毎年恒例の、ルネッサンスダンス&音楽!
今年は、音楽の指導担当で講師として参加しました。
アンサンブルの指導は、大学の時に学んだ 音楽教育学が役立ちました。
自分では思ってもみなかったのですが、これが楽しい!



 ダンスの指導にあたったのが、この黄色い服を着ている方。
私たちの住んでいるところから近所で、とっても親切にしてくださっています。
この真ん中の女性は、自分で手作りのドレスを作りました。
彼女に、実は私のウェディングドレスをお願いしています。


 彼女も、ダンスマイスター。とっても素敵な女性です。ダンスもうまい!





チェロを持つ私、貴重な写真です。(笑)








2014年2月20日木曜日

ローザンヌ即興演奏会と子供のための即興

スイスのローザンヌへ5日間演奏旅行してきました。
私の主人との演奏会、そして、彼のロザンヌと、ジュネーブでの講演会(子供と大人の為の
即興演奏)が目的でした。
この話をする前に、私たちが去年の夏に出会ったZ夫婦の話しを書きます。
Z夫婦が、夫の即興の本に大変興味を持って、ハレを訪ねて、一緒に食事をした後(5冊も購入してくださった)に、Z夫婦は、ぜひローザンヌに来るときは泊ってください、と話しをしていた直後に、ローザンヌ行きは現実のものとなりました。
Z夫婦は70代ではあるが、パワフルで音楽を趣味としていました。
彼らの家は、とても豪華で、その上サン・クロワに別荘を持っていました。
至れり尽くせりで、泊っている間は、豪華な食事が次々と・・・。
スイスは、物価も家賃も高く、現在、一軒家を持とうとすると、1億は軽くするらしい・・。

スイスの山脈からの南風の突風の吹く中、私は翌朝頭痛に悩まされていたが、
清々しいハレ模様だったので、みんなでZ夫婦の別荘にお邪魔しました。
別荘から見える景色は最高だった。モンブランの山もくっきりと見えるほどでした。。

サン・クロワから見た景色

 それからお昼は、チーズフォンデュをごちそうしてくださった。ご主人の自慢の手料理。
慣れた手つきで、チーズを混ぜる姿は、スイス人・・・・ではなく、
ご主人は実はルクセンブルクの出身で、奥さんはドイツ人でした。
ローザンヌはちなみにフランス語圏。

チーズフォンデュ
次の日は雨。でも、ローザンヌの町を観光しました。
こんな日は、やっぱりココアに限ります。
スイスのチョコも欠かさず買いました。
しかし、ローザンヌ、坂が多い。トラムに乗ったら、すごい傾きにびっくりしました。
でも、ローザンヌの出身の人と行動したので、秘密の抜け道から、ドームまで抜けて、
そこから下り坂で観光できました。

 翌朝は、演奏会。
歴史博物館の中で演奏しました。
曲目は、

1.Doulce memoire "Quinta vox"による即興
2.カノンの即興 2声
3.Anchor che col partire "Bastarda"即興
4.Come havran fin le dolorose tempre "Quinta vox"による即興
5. Ohime ch'io cado即興
6.Jacob van Eyckのスタイルでの”ラ・モニカ”を即興
7.ファンタジー Ut Re Mi Fa Sol La
8. Sonataの即興 Adagio, Fuga, Frave, Gavotta
9.バッハのG線上のアリアをフランス組曲に編曲

4曲目のCome havranは私の新作で、”Quinta vox"に挑戦しました。
"Quinta Vox"とは、4声のマドリガルを5声にするという、対位法を問われる
難しい即興法です。







歴史博物館(ロザンヌ)
そして、最後の2日間は、私の主人がジュネーブと、ローザンヌで即興演奏の
講習会をしました。
特に、ロザンヌでは、子供の為の即興演奏。これは、とても興味深いものでした。
子供でもできるような、オスティナートバス、ラ・フォリアを始め、中世のエスタンピや、
映画アメリの曲など、とてもユニークな方法で、教えていました。
大人の為の講習会では、ローザンヌで子供にガンバを教えている方に出会いました。
彼女の生徒は15人!とてもうらやましいです。どんな風に子供にガンバを教えているか、
色々とアドヴァイスを頂きました。